大判例

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東京高等裁判所 昭和29年(ラ)90号 判決

その理由の要旨は、抗告人はかねて梅田茂一に対し本件建物を賃貸していたが、梅田茂一は賃料を延滞したので、賃貸借契約を解除した上、梅田茂一に対し右建物明渡請求訴訟を東京地方裁判所に提起した(同庁昭和二十七年(ワ)第五四九号事件)ところ、同訴訟事件の昭和二十七年三月十五日の口頭弁論期日に、抗告人と梅田茂一との間に、一、梅田茂一は昭和二十六年四月以降昭和二十七年二月までの一箇月金六百円の割合による延滞賃料合計金七千二百円を昭和二十七年五月末日限り、抗告人代理人鈴木由治方に持参支払うこと、二、梅田茂一が右延滞賃料を期限までに支払はないとき、及び今後二箇月分以上の賃料を滞つたときは抗告人より賃貸借契約を解除して明渡を請求せられるも異議なきこと、三、抗告人はその余の請求を抛棄すること、四、訴訟費用は各自弁のことの条項の裁判上の和解が成立した。しかるに、梅田茂一は昭和二十七年三月一日以降の賃料を抗告人に支払はなかつたので、抗告人は右和解条項に基き昭和二十八年七月二十日梅田茂一に対し右賃貸借契約を解除する旨の通知をなした上、同年八月十八日同裁判所書記官に右和解調書正本につき執行文の付与を申請したところ、右申請は拒絶されたので、更に同裁判所にこれに対する異議を申立てたが、同裁判所は、右和解条項第二項に基き賃貸借契約を解除する場合にも催告を要するから、催告を欠く抗告人の上記賃借契約解除の通知はその効力を生じないとして右異議申立却下の決定をなした。しかしながら、契約の当事者間において催告を要しないで契約を解除しうる旨の約定をなすことは妨げないところであつて、右和解条項第二項もこの趣旨の契約解除の要件を約定したものに外ならない。即ち賃貸借契約において、賃借人において一箇月分の賃料を滞つた場合でも賃貸人は催告をなした上契約を解除しうるに拘らず、上記の経緯の下に成立した賃貸借を内容とする右和解において、賃貸人たる抗告人は賃借人たる梅田茂一が二箇月分以上の賃料を滞つた場合でなければ催告の上契約を解除しえない趣旨の約定をなすことは到底想像しえないところである。従てこれと反対の見解の下に本件異議申立を却下した原決定は不当であるから、これが取消を求めるというのである。

案ずるに、本件和解調書には、抗告人において右和解条項第二項により梅田茂一の賃料二箇月以上の延滞を理由として同人との間の建物賃貸借契約を解除するについては、特に催告を要しない趣旨の記載の存しないことは右和解調書自体に徴し明である。しかるに本件記録によれば、元来右和解は、梅田茂一において、抗告人から賃借していた右建物の賃料を延滞したため、抗告人から梅田茂一に対しこれを理由として賃貸借契約を解除した上、右建物明渡請求訴訟を提起し、右訴訟において抗告人の明渡請求の譲歩によりその成立を見たものであること、その結果、右和解条項第一項には梅田茂一において延滞した賃料を特定期日までに抗告人に支払うべきことを定めると共に、その第二項には梅田茂一の右延滞賃料、及び爾後の賃料支払義務の履行を確保して抗告人の被る不利益を避けることを考慮し、梅田茂一の不履行により容易に右賃貸借契約を解除しうることと定めたことを認めうる。(右和解条項第一、第二項の関係は和解調書の記載に照しても容易に看取しうる。)このような場合には、抗告人は右和解において梅田茂一の賃料二箇月分以上の支払延滞により催告を要しないで右賃貸借契約を解除しうる趣旨の約定解除権を取得すべきことを定めたものであつて、梅田茂一において賃料二箇月分以上の支払延滞により初めて催告の上右賃貸借契約を解除しうる趣旨の法定解除権の加重を約したものではないと認めるのが相当である。従て梅田茂一において右和解成立後の賃料二箇月分を延滞したため、抗告人が右和解条項第二項に基き梅田茂一に対し右賃貸借契約解除の通知をなしたことが記録上明である本件においては、抗告人の右和解調書正本に対する執行文付与申請はこれを許容すべきである。しからば右申請却下に対する異議申立を却下した原決定は不当であつて、本件抗告は理由があるから主文のとおり決定をする。

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